日帰り白内障手術に対する私のこだわり
まず、はじめに
白内障は程度の差こそあれ加齢と共に必発の病気で、皆さんに起こってくる病気です。(私(清水)も将来必ず白内障になります)
日本では年間約100万件の白内障手術が行われているとも言われています。
それゆえ一般眼科外科医の手術症例数とはして白内障手術は、圧倒的多数を占めます。
眼科外科医にとって、「よくある病気」、「よくある手術」だからこそ、私は特に力を入れて、1例1例、丁寧に診療・執刀に臨んでいます。
一般の方にはよく知られていない事実ですが、ひとことに白内障手術といっても実は通常の症例から高難度の症例まであります。
私はこれまでの石川県・富山県の中核病院での豊富な経験・技術を活かし、あらゆるタイプの白内障に対し、日帰り手術で可能な限り対応いたします。
「よくある病気」、「よくある手術」だからこそ、そろそろ手術を、と考えておられる患者さんからよく質問される内容があります。
下記に「よくある質問」Q&Aという形式でいくつか回答します。一般の方がなかなか知ることができない本当に知りたいQ&Aを意識して、作成しています。
専門知識のある眼科医として、「もし自分が専門知識のない患者だったら」という気持ちでホンネで回答していますので、ご参考にして頂ければと思います。
Q1 白内障手術は、「すぐ終わって、痛くない、簡単な手術」ですか?
白内障手術は、通常症例では10分前後くらいで終わって、痛みのほとんどない、「患者さんにとって」簡単な手術です。
「患者さんにとって」と強調して書いたのは、この手術を正確に丁寧に行うのには熟練と洗練されたテクニックを要するからです。
決して白内障手術は簡単な手術ではありません。
私が思うに、白内障手術は繊細な技術と経験を要する、むしろどちらかというと難しい手術だと思います。
しかし数多くの経験・努力により熟練した医師が執刀することにより、「患者さんにとって」簡単な楽な手術となります。
またその手術技術が生み出されたのは、数えきれないくらいの先輩眼科医たちの絶え間ない努力の結晶の集大成なのです。
皆様が特に心配される痛みに関してですが、私が2017年に行った白内障手術中の痛みに関してのアンケート結果では、
①まったく痛みを感じなかった 53%
②わずかな痛みを感じた 40%
③痛みを感じた(②より強い) 7%
④耐え難い痛みであった 0%
という結果でした。ご参考にしてください。
Q2 視力がどれくらい悪くなったら手術をすればいいですか?
決まりはありません。また学会等が推奨する明確なガイドラインなどもありません。
以前(10年以上前など)は矯正視力(メガネやコンタクトをした最高視力)が0.7(あるいは0.5)
以下になったら、などという漠然とした線引きがありましたが、現在では、「視力にかかわらず、
白内障が間違いなくあり、白内障による患者さんの見にくいという症状があれば、いつでも手術を
行う、手術適応である」と考えられています。ですので、視力が1.0でも白内障による見にくいという
症状があり、かつ患者さんが希望すれば、手術を行います。逆に視力が0.3でも患者さんが見にくい
という自覚がなく、また手術を希望されない場合は、手術は行いません。しかし、
これはさすがに手術したほうが良いと思われる、かなり進行した白内障は、医師の方から積極的に手術を勧めます。
Q3 日帰り白内障手術は、本当に安全なのでしょうか?入院して手術するほうが安全なのではないでしょうか?
一部の特殊な患者さん(※後述します)を除き、日帰り白内障手術が、入院手術に比べて
危険だということは、「ない」と考えています。
勤務医時代から入院手術と日帰り手術の両方を行ってきた自分の経験からも、日帰り手術が、入院手術より危険だ、リスクがある、と思ったことはありません。
なぜかという理由を以下に示します。
現代の白内障手術では、手術前後に使う全身投与薬は中等量の抗生物質くらいです。あとは全て全身に副作用はまずないといっていい点眼薬のみです。
また手術自体が全身に大きな影響を及ぼすことはまずありません。
ですので、手術後にご自宅に帰宅する「日帰り手術」でも特に危険性はないと考えております。
アメリカ(特に合理的な考え方の国ということもあり)では10年以上前から白内障手術は日帰りというのが常識になっています。
補足情報ですが、白内障手術は極めて安全性の高い手術ではありますが、やはり万が一
(正確には日本白内障学会(JSCR)公表情報で、1件/2000~3000件)、恐ろしい合併症があるのは否定できません。
代表例が、術後眼内炎という術後の眼球感染症ですが、これは極めて低い確率で起こりえます。
しかし、術後眼内炎は、入院手術だから起きない、日帰り手術だから起きやすい、ということはありません。
※初めに記載した一部の特殊な患者さんについての補足説明です。
入院での白内障手術が望ましいと思われる一部の特殊な患者さんとは、具体的には「中程度以上の認知症」を患っておられる患者さん、
また「中程度以上の精神疾患」と患っておられる患者さん、などです。さらに「お一人暮らし」などの条件が加わると、
よりハイリスクとなります。この場合、手術を行ったという事実を忘れてしまったり、術後の注意点に対するご理解が難しく、
手術した当日に禁止されている入浴や洗顔を行ってしまったり、目を強くこすってしまったりすることがあります。
また、決められた回数の術後点眼を守っていただけない場合があります。
このような場合はもちろん外来手術が安全だとは言い切れませんので、入院手術が望ましいと判断されることがあります。
また重度の全身疾患を多数患っている患者さん・片目が既に失明していて手術する目が唯一見える目の患者さん、
なども場合によって入院手術が望ましいと判断されます。
Q4 白内障は放置すると手遅れ(失明して治らない)になりますか?
また80歳以上でも90歳でも手術できますか?あるいは糖尿病があっても手術できますか?
白内障は原則手遅れにはなりません。しかし、進行しすぎた白内障は手術難度が高くなり、合併症を起こす可能性を高くしてしまいます。
また進行しすぎた白内障のせいで、もし眼底疾患(例えば緑内障や網膜剥離)があってもそれを術前にみつけることができないので、手術したあと
どれくらい見えるようになるかの予測が困難となります。
また、白内障手術に年齢制限はありません。勤務医時代は、高齢で体に重い病気を抱えている患者さんでも、患者さんの希望があれば、
患者さんと相談し、積極的に手術を行っていました。
90歳以上の患者さん(最高97歳!)も多数手術してきました。高齢だから手術がうまくいかない、手術する価値がないということは決してありません。
もちろん患者さんの意志が一番大切ですので、手術する意思がある患者さんは、ご高齢でも十分に相談し手術を検討します。
話は少し変わりますが、勤務医時代、末期ガンで余命半年と宣告された患者さんに白内障手術を行ったことがあります。
その患者さんは重度の白内障を有し、患者さんが手術を強く希望されたケースでした。
術後患者さんには喜んでいただくことができ、よく見える目で余生を過ごされました。
手術を行って心から良かったと思いました。
私は、どんなに高齢でも、ある程度のご家族のサポートがあり、強い認知症や重度の全身疾患がなければ、日帰り手術で十分対応可能と考えております。
また糖尿病を患っている患者さんについてですが、もちろん糖尿病があっても白内障があれば、白内障手術を通常と同じように行うことができます。
しかし、糖尿病の血糖コントロールが不良の患者さんについては、手術のリスクが高くなりますので、血糖コントロールがある程度良好になってから
手術を行うこととしています。
Q5 白内障手術は1度受けた後時間が経つと効果がなくなって、また見にくくなる、
1度しか受けられないのでなるべく手術は後回しにしたほうがいい、という話を聞きます。本当でしょうか?
白内障手術の効果が時間とともに減弱することは理論上ありません。ですのでこの話は本当ではありません。
しかし白内障手術を受けた患者さんの2~3割に、術後しばらくして「後発白内障」という合併症が発症してくることがあります。
これは手術直後はよかったが、しばらくしてまた手術前のように見にくくなってくるという合併症です。この合併症は人工の眼内レンズが入っている
透明な袋が時間経過とともに濁ってくるという病態ですが、外来で簡単に施行できるレーザー治療で治癒できます。
一度レーザー治療を行えば、再び術直後のような良好な見え方に戻り、基本的に二度と起こりません。
しかしQ5のような話は医師である私も患者さんから聞いたことがあります。なぜこのような話が出てくるのかははっきりわかりません。
しかし上記のように白内障手術は基本的に生涯1度のみしか行いませんし、2度行う必要もありませんし、2度行うこと自体が不可能です。
時々術後の患者さんが「手術した直後はよく見えるようになって感動しましたが、時間とともに感動が薄れて前からこんなものだったかなと感じることがあります。
人間て不思議ですね。」と笑いながらおっしゃられます。このような話がQ5のような質問の元となるのでしょうか?
あるいはほかに考えられるのは、そのような話をおっしゃる患者さんは、実は白内障以外の目の病気があり
その白内障以外の疾患の悪化により視力低下をきたし、白内障手術の効果が薄れてきたと感じておられるのかもしれません。
例えば白内障と重症な緑内障を持っている患者さんの場合、白内障手術によりだいぶ見やすくなったもののその後数年後、
緑内障の悪化で目が見にくくなった場合などです。
Q6 白内障手術を受けた人の中には「感激するくらいよく見えるようになった」という人と、
「手術したのにたいして良くならなかった」という人といるようです。なぜ結果に差があるのでしょうか?
これは現実にQ6の質問のように、2通りの感想を述べる患者さんがいます。手術前の白内障の程度、
白内障以外の目の病気の有無によってこのようなことが起こり得ます。
少し長くなりますが、具体的な例を挙げてみます。私の過去の実体験です。
Aさんの場合
Aさんは、手術前、白内障は比較的軽度(皮質白内障という種類の白内障でした)で視力は1.0ありますが、
夕方の運転の際にひどく見にくい(日中はひどく見にくいという症状はなし)という症状があり、
Aさん自身、手術に抵抗がなく積極的な性格だったので、医師と相談結果、白内障手術を受けることにしました。
もちろん医師は手術後は感激するほどものすごく良くなるわけではないことを説明し、Aさんも納得しました。
術後は視力は1.2と術後とほとんど同じです。Aさんの感想は「先生の言ってたとおりです、手術して少しだけ良くなった、
夕方の運転に関してはスッキリしました、という感じです。」というものでした。
Bさんの場合
Bさんは何年も前から医師から白内障を指摘されていて手術もした方が良いと言われていましたが、手術が怖くて決心がつかず、様子を見ていました。
数年後いよいよ見にくくなってきてようやく手術をする決心をしました。そのときの視力は0.1、かなり進んだ白内障が認められました。
手術後、視力は1.2となり、Bさんは「嘘みたいに世の中がはっきり見える。感動しました。」と大変な喜び様でした。
この例をきけば答えはわかると思います。「全く同じ手術で全く同じ結果」でも「どれだけ良くなったか」で患者さんの感想はかなり異なります。
追記ですが、Aさんが手術を受けたのが早すぎた、間違った判断というわけではありません。また医師がAさんに比較的早期の手術を
行ったのも間違った行為ではありません。術後の患者さんの感想に相違が出る例を示したのです。
Bさんは感激するくらいの結果で大変良かったのですが、現実的には強い抵抗がある人でも0.7(運転免許更新が両目で0.7の視力が必要)を切るくらいになれば、
手術をお勧めします。
見にくいまま我慢して、それ以上まつ理由(あるいはメリット)が特にないからです。
実際Bさんも術後に「こんなことなら何年も見にくいまま我慢せずに早く手術をうければよかった!見にくいままの数年間を過ごしたことがもったいなく感じます。」
と笑顔でおっしゃられました。
またこの例以外にも以下のようなものも考えられます。
白内障手術を受ける患者さんの中には白内障のみではなく、緑内障・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性症など別の目の病気を持っている患者さんがいます。
例えば、かなり進行した加齢黄斑変性症の患者さんで白内障も進行してきた場合、白内障の手術を行うことがあります。
このとき医師は、「〇〇さんの場合は、加齢黄斑変性症が視力低下の一番大きな原因なので、白内障手術をしても大きな視力改善は見込めない、
しかし少しだけ白内障手術により見やすくなる可能性はあります」と説明します。
そのうえで手術を希望された場合、手術を行います。例えば手術前は0.01だった視力が術後0.05まで改善したとします。
患者さんの術後の感想は、「医師が術前に説明してくれたとおり、手術で少しはマシになったが、やはり見にくいままだなあ」というものです。
残念ながら、上記のような患者さんの中には、手術前に主治医から十分な説明がないまま、「とにかく手術をしましょう」と手術を勧められ、
手術をしたが、「わずかに良くなったが、もっとよくなるもんだと思っていた。」と思ってしまう患者さん、あるいは医師がきちんと
説明したにも関わらず、白内障手術をすれば感激するくらいに見えるはずだと思い込んでいる患者さん、が含まれていて、
そのような患者さんが「手術をしたのに対して良くならなかった」という話のもとになっているかもしれません。
以上のような例がQ6のような話の元となっていると考えられます。
Q7 それでも手術しても視力が良くならなかった、逆に悪くなったという話も聞きます。
また、手術して見えるは見えるが、目が都合悪くなった。四六時中疲れるようになったという話も聞いたことがあります。
これはなぜでしょうか?手術の成功・失敗などがあったりするのでしょうか?
まず白内障手術後の大きな視力低下につながる重篤な合併症というものの存在についてですが、残念ながら極めて安全と言われる白内障手術でも、
重篤な合併症(眼内炎や網膜剥離など)は極めて低頻度ですが存在します。頻度は低いですが重篤な合併症が起こったときは残念ながら術前と
比べてあまり良くならなかった。逆にひどく悪くなった、という結果になっても不思議ではありません。
しかし、私はQ7のような話をされる患者さんのうち本当に白内障手術の重篤な合併症が起こって見えにくくなってしまった人の割合は非常に少ないと思います。
「見え方」というものは主観的なものです。客観的には評価はできても患者さんが自身が感じる見え方が、その患者さんの「見え方」です。
私自身の過去の実体験です。
70代のCさんは、特に体の病気はありませんでしたが、普段から睡眠薬を内服しており、やや心配性で神経質な患者さんでした。
白内障による視力低下を認め、手術を予定しました。
手術当日、全く問題なく白内障手術を終了し、術後の目の状態も完璧と言えるほど綺麗な状態でした。
眼内レンズは、着色・非球面・アクリル素材の当時として最新の技術のものを挿入しました。
術後数日して2回目の診察においでたときに、「先生、眩しくて、見にくくて、目がクラクラしてかなわないんです。」と沈痛な表情でおっしゃいました。
私はびっくりして、患者さんの目に何か術後の合併症が起こったのではと、診察をしましたが、全く問題なく良い結果のままでした。
視力を確認すると、術後は両眼とも視力0.5だったのが、術後は裸眼視力で右0.9と左1.0と大きく向上していました。
網膜の状態も問題なしでした。術後のドライアイ、目薬による毒性やアレルギーなどを起こす事がありえるので、その診察もしましたが、問題なしでした。
その患者さんは、何度か受診していただだき、色々な目薬を試しましたが、あまり効果はなく、患者さんは来院するたびに悲痛な表情で症状を訴えられ、
「手術なんてするんじゃなかった」、と私に訴えられました。私がどうしたものだろう?と困っていたあるとき、患者さんが、
「だてめがねをかけるとなぜか楽になり、まあまあよく見えるし我慢できる程度です」ということをおっしゃったので、
それ以来、外出時はだてめがねをするということで落ち着きました。
しかし「だてめがね」でよくなるという医学的根拠は全くありません。最終的に医学的にこの患者さんの症状を説明はできませんでした。
冒頭でこの患者さんが睡眠薬を飲んでいて神経質だったということを書きましたが、この患者さんの術後の訴えが精神的な面からきていると
決めつけている訳では決してありません。私がこの患者さんから学んだことは、医者がいくら完璧にできたと思っても、
傷一つなく全くの侵襲無しで手術をすることは不可能なのであり、どんなに小さな傷・どんなに小さな侵襲でも患者さんに行う手術という行為に
完璧ということはないということ、また人工の眼内レンズがいかに最新技術を駆使して作られた優れた医療器具でも、親からもらった
若き頃の水晶体にかなうものではない、ということでした。
このような患者さんは稀ですが、いらっしゃいます。ひょっとするとQ7のような話はこのような患者さんから起こってくる話かもしれません。
最近、「眼科手術不適応症候群」という概念があります。これは簡単に言うと、「手術は全く問題なくうまくいった、結果も妥当な良好な結果であり、
他の眼科疾患もない」、・・・にもかかわらず、眼科手術後に「疲れ目、羞明(まぶしい)、乾き目」などの強い症状が起こるという疾患概念です。
原因や対処法はまだはっきりしていないようです。
またこの例以外にも、手術は問題なく予定通り終わったのに、術後の視力がなぜかあまり良い結果ではないことが稀にあります。
私たち眼科医は白内障以外に視力が出にくい原因がどこにあるのか、もちろん術前から角膜、硝子体、網膜、視神経と病気がないかを調べてはいるのですが、
どんなに調べて異常がなくても術後視力がイマイチ不良なことが稀にはあります。
Q8 手術後は裸眼(はだかめ)で必ず1.0以上の視力にできるのでしょうか?
結論から述べますと、裸目(はだかめ)で必ず1.0以上の視力にできる保証はありません。
しかし、裸目で1.0の視力を希望する患者さんには、なるべく1.0の視力を目標に手術を行います。しかしその保証はないということです。
そしてまた裸目の視力の善し悪しというものと、手術の成功・失敗というものには関わりがありません。
また前述してありますが、白内障以外の眼疾患(例えば重度の緑内障や糖尿病網膜症)がある患者さんの場合、
白内障以外の理由で1.0の視力が得られない場合がありますが、これはやむを得ないです。
白内障手術は、眼内レンズという人工物を眼内に移植します。この眼内レンズにもメガネやコンタクトレンズと同じで、色々な度数があり、
手術前に患者さんに応じて眼科医は注文をかけて手術時に移植します。
眼内レンズの度数決定には眼球の長さや角膜の曲率半径などさまざまな眼球の検査を測定し、何十年と研究・改良されてきた計算式で計算し決定します。
しかし、人体というものは金属やネジでできた機械とは違います。計算通りにいきません。
人体というものでは眼内レンズ度数には必ずそれなりの確立で誤差を生じます。その誤差で術後の裸目の視力に差が出てきます。
ほとんどの場合、誤差が出てもわずかなので、再手術をするほどのものではありません。
しかし、一般の人は、「僅かな誤差なら、1.0は見えなくても0.9とか0.8くらいは見えるのだろう」と思いがちですが、屈折値のわずかな誤差でも、
視力は0.5前後の結果になることがありえます。この点をご理解していただきたいと思います。
メガネやコンタクトレンズを合わせたことがある方ならわかると思いますが、合わせるときに、色々なメガネあるいはコンタクトを試し掛けしますね。
このとき何度かいろいろな度数を試して、一番よかったレンズを最終的に決定します。
しかし白内障手術の眼内レンズは試し掛けができません。一発勝負です。
そのため術前にさまざまな検査や精密な計算式で眼内レンズを決定するのですが、誤差が生じうるのです。
Q9 白内障手術によって乱視を治すことが出来ると聞いたのですが本当でしょうか?
乱視矯正用の眼内レンズが日本では2009年に承認され使用されています。
既存の眼内レンズに乱視矯正の度数が組み込まれているだけで根本的に素材上の変化があるわけでもなく安全なものです。
保険診療が認められていますので、費用も既存の眼内レンズ挿入手術と同額です。
当院でもある程度以上の乱視がある患者さんには積極的に使用しています。
ですので、白内障手術で乱視を軽減することは可能です。しかし、A7で述べたように、この乱視矯正もまた誤差が十分にありえます。
そして時に誤差は小さくない場合があります。もちろん計算・論理上は乱視を大きく軽減することを目標に眼内レンズを決定し手術しますが、
誤差が起きることが十分にあるということです。ですので患者さんにはあくまで乱視はマシになる確率が高いという気持ちで手術に臨んでもらうことを勧めます。
Q10 最近は老眼も治るという多焦点眼内レンズがあると聞いたのですが、本当に老眼は治るのでしょうか?
多焦点眼内レンズは、眼光学的科学技術によって生み出された、老眼を治療、克服しようという
眼科医や医療機器・材料メーカーの努力の結晶であり、理論的に「間違った、怪しいもの」ではありません。
現在(2018年)のところ眼科医の中には、「多焦点眼内レンズはとてもいいものなのでぜひ入れたほうがいい!」という眼科医もいれば、
「多焦点眼内レンズはあまりよろしくない。」という眼科医もいます。
結論から述べますと、私はその中間の立場です。「あんなものは良くない」とも思いませんし、
「とても良いものなので、お金の事情が許すならば絶対に入れた方がいい」とも思いません。
皆様の中には、「多焦点眼内レンズは、自由診療で非常に高額な治療なのだから、少なくとも健康保険適応の従来の単焦点レンズと比べて、なに一つ劣ることはないのだろう」
と考える方も多いかもしれません。しかしそれは正しくはありません。
もちろん多焦点眼内レンズのほうが、従来の単焦点眼内レンズより優れている面は、間違いなく多くありますが、その一方で従来の単焦点眼内レンズのほうが、多焦点眼内レンズより優れている面も間違いなくあります。
その理論的な理由についてはかなり煩雑な説明となってしまいますので、もし、詳しいお話を聞きたい方は直接ご来院いただければと思います。
重複しますが、多焦点眼内レンズを用いる白内障手術は、保険診療が適応されず自由診療です。当院でも片眼あたり35万円で手術を行うことができます。
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